大津市歴史博物館

お知らせ

新発見!!速報展示
新知恩院(大津市伊香立下在地町 浄土宗)の
木造涅槃像の新発見と初公開について
平成26年2月8日(土)〜4月13日(日)《展示期間を延長しました》

伏せた姿

概要

  大津市伊香立下在地町に所在する新知恩院は、京都の知恩院が応仁の乱(1467〜77)の時に疎開してできたという浄土宗寺院で、疎開時にもたらされたとされる知恩院ゆかりの宝物や、その後に整備されたものも含め、数々の宝物が伝来しています。歴史博物館では、1212年に入滅した法然上人の没後800年を記念し、2012年から市内の浄土宗寺院の宝物調査を進めてきました。そのなかで、今回、新知恩院の蔵の中から鎌倉時代に遡る「木造釈迦涅槃像」を見つけました。 それにともない、本像の速報展示を行ないます。


本像の特徴@:木造の涅槃像であるということ。

  絵画の仏涅槃図は、全国各地の寺院に伝わっていますが、彫刻の釈迦涅槃像は全国的にみても作例はあまり報告がありません。重要文化財に指定されている像が奈良県・岡寺像、香川県・観音寺像、広島県・照源寺像の3件で、また、奈良県・法隆寺の五重塔の初層北側に安置のものなどが古い像として知られていますが、現存の総数でいえば、30〜50例ほどしか知られていないようです。ですから本像はその数少ない彫刻の例ということが出来ます。


本像の特徴A:体長が12.8センチしかなく、極めて小さい。

  現存する他の木造釈迦涅槃像を見ると、体長が約180pの等身大か、その半分の3尺(約90p)がほとんどで、本像のような小さい像は他にみられません。頭からかかとまでビャクダン材の一木から彫り出し、手先や足先などは別材を矧いでいます。肉身部は金泥、着衣部は素地に截金文様を施し、極力彩色は行っていません。


本像の特徴B:胸に水晶を嵌めている。

  本像は、胸部を彫り込んだうえに金泥を塗布し、さらにそこに胸の形に造った水晶を嵌めているという珍しい技法を使っています。
 おそらくこの表現は、『大般涅槃経後分』に出てくる、釈迦の涅槃時に体から光が発せられたという様子を表していると思われます。もしくは、この胸部の中の隙間に、舎利(釈迦の骨)を納入していたと推測する向きもあります。
 鎌倉時代には、唇や手などを水晶とする例が散見されますが、胸を水晶で表す像は他では知られておらず、本像は極めて珍しい作例ということが出来ます。

胸部(水晶)


本像の特徴C:右手の姿勢が古様。

  本像は、右手を屈臂してやや頭部の方に近づけていまが、これは他の彫刻の釈迦涅槃像ではほとんど見られないものです。この構え方は、大津市・石山寺に伝来する涅槃図といった鎌倉時代の古例の涅槃図に見られる姿勢です。ちなみに他の彫像の姿勢は、右手を頭の下に持ってきて枕状にするもので、画像でいえば鎌倉時代後半から見られるものに準じています。ですから本像が鎌倉時代も早いころに流行していた古い図像をもとに造像されたことが考えられます。


本像の特徴D:快慶の作風に近似。

  本像の顔の輪郭や、少し目尻をあげた理知的な表情、そして衣文の運び方などを見ると、鎌倉初期(12世紀後半から13世紀前半)に造像活動が知られる快慶の作例にみられる表現に近いものを持っています。ただし本像は他の快慶作例と比較するにはあまりにも小さすぎるため、快慶本人の作と断言することは少し難しいものがあります。ですが、現在観察できる範囲では快慶の作風に似ているため、快慶が主催する工房によって13世紀の第1四半世紀、特に1210〜20年代に造像された可能性があると思われます。奈良時代と言われている法隆寺像が、修理が多くその年代の詳細を確定できないなか、この法隆寺像を除けば、本像は我が国の彫刻の涅槃像の最古級の例となります。

像正面


本像の特徴E:寺院よりも古い。

  本像の伝来した新知恩院は15世紀の創建ですから、本像は寺よりも古いことになります。この寺は知恩院が疎開してできた寺院ですから、本寺である知恩院からもたらされた可能性も考えられます。本像が造像された、13世紀の前半は、天台浄土教や法然教団が活動を活発に行っていた時期です。法然は1212年に没しますから、1210〜20年代に造像されたと想像される本像と法然を直接結び付けるには勇気がいりますが、天台浄土教や初期浄土宗と近い環境のもと造像されたのかもしれません。快慶工房がこれらの教団の造像を多く手掛けていたことも知られています。ちなみに本像が収められている箱の蓋裏には「此涅槃像者開山以来重寶秘中之秘也/尽未来際不可出門外者也」という墨書銘があります。この墨書銘は後世のものであるため、その内容を無条件に信用するわけにはいきませんが、寺では法然ゆかりの秘宝として大切に扱ってきたことが伺われます。

台座(正面)
台座(側面)
台座(裏面)
台座(側面)

台座

  涅槃像を載せる台座は、江戸時代に制作されたと考えられます。その周囲には迦陵頻伽(かりょうびんが:仏教特有の動物で綺麗な声で鳴く)、獅子、虎、白像、龍、鳳凰、雉(か?)、猿、孔雀、兎、牛、馬など全部で12匹の動物が描かれています。どれも細かく彩色されており、小さいながら大変見応えのあるものです。

 このように、我が国に現存する木造の釈迦涅槃像のなかでも、本像の特異性は際立っており、日本の彫刻史や宗教史上、大変貴重な作例ということが出来ます。

インフォメーション

新知恩院蔵 木造涅槃像 速報展示
会  期 2月8日(土)〜4月13日(日)《展示期間延長》
 ※月曜、ならびに休日(2月11日)の翌日は休館
 ※3月16日までの予定でしたが、好評につき4月13日まで延長しました。
展示場所 大津市歴史博物館 常設展示室
観 覧 料 常設展示観覧料が必要です くわしくはこちら