大津市坂本にある天台真盛宗総本山西教寺には、仏教美術の優品をはじめとして、数多くの文化財が伝えられてきました。その中には、伏見城の遺構を移築した客殿を飾る障壁画など、数多くの近世絵画作品が含まれています。そこで本ミニ企画展では、普段はあまり見ることができない、西教寺に伝来する江戸時代に描かれた屏風の数々を紹介します。
金箔を押した画面の中に、スギをはじめとして、マキやヒノキといった針葉樹が描かれています。右隻ではスギの木立が茂り、ところどころにアクセントとしてマキが配されています。一方左隻では、なだらかな丘陵の前後にヒノキの木立が生い茂り、マキの姿も見られ、木々の間は金雲によって遠近感が表現されています。
本図は、寺伝で「時雨屏風(しぐれびょうぶ)」と呼ばれています。日本では、古来よりスギやマキ、ヒノキなどは雨や霧、霞といった水や大気との関わりで和歌に詠まれてきたことと、画中に施された金雲による霞の表現から、そのように呼ばれたのかもしれません。画中には作者を示す落款・印章は見られませんが、画中に散らされた木々やなだらかな丘陵、木々の間に配された金雲などの表現から、長谷川等伯に始まる長谷川派の絵師によって描かれたと考えられます。
大津市指定文化財 杉木立図屏風 右隻 |
大津市指定文化財 杉木立図屏風 左隻 |
銀箔を押した画面の中に、33人の子どもと、物売りの男性が描かれています。このような画題は、「売貨郎図(ばいかろうず)」と言って、中国の宋時代頃から描かれてきました。「貨郎」とは小間物を売る行商人のことで、画中には人形や、お面、風車、本など様々な売り物が見えます。貨郎は歌や音楽などで人々の興味を引いて物を売り歩いていましたが、その様子から元時代には芸能の一つとして演じられていました。本図でも、男性が踊りながら笛のようなものを吹いており、それにつられて子どもたちも楽しそうです。中国において、古くから子どもは「子孫繁栄」を意味するおめでたい画題であり、日本でも食器や布地などに多く用いられ、当時人気の画題の一つでした。
唐子図屏風 右隻 |
唐子図屏風 左隻 |
本図は、「南蛮屏風」や「安南(ベトナム)交易図屏風」とも呼ばれています。8曲1双という巨大な画面の中に、異国情緒あふれる町と、そこに生活する人々が生き生きと描き出されています。町は城壁で囲まれており、その傍を流れる水運には、様々な大きさの船が行きかっています。町中には水路が引かれ、水の恵みによって豊かに発展した都市の賑わいをありありと見て取ることができます。具体的な地名は不明ですが、様々に描かれる樹木や花、鳥、動物の様子などから、特に南方の町を描いたものと考えられます。鎖国されていた当時の人々にとって、このように異国の町を描いたものはとても新鮮に感じたことでしょう。
風俗図屏風 右隻 |
風俗図屏風 左隻 |
bP.大津市指定文化財 杉木立図屏風 紙本金地著色 6曲1双 桃山〜江戸時代(16〜17世紀) 西教寺蔵 |
bQ.唐子図屏風 紙本銀地著色 6曲1双 江戸時代(19世紀) 西教寺蔵 |
bR.風俗図屏風 紙本金地著色 8曲1双 江戸時代(19世紀) 西教寺蔵 |
タイトル | 第119回ミニ企画展 西教寺伝来の屏風 |
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会期 | 平成27年 3月3日(火)〜4月12日(日) |
期間中の休館日 | 月曜日(月曜日が祝日の場合は、翌日休館日) |
会場 | 大津市歴史博物館 常設展示室内 ミニ企画展コーナー |
観覧料 | 常設展示観覧料でご覧いただけます。 |