大津市歴史博物館

お知らせ

速報展示
 新指定 松禅院の仏像
開催期間 令和3年(2021年)6月11日(金曜)から7月11日(日曜)まで

このたび、大津市坂本本町の松禅院に伝わる観音菩薩立像と地蔵菩薩立像が、新たに滋賀県指定文化財になりましたので、速報展示します。


開催インフォメーション

タイトル 速報展示 新指定 松禅院の仏像
会期 令和3年(2021年)6月11日(金曜)から7月11日(日曜)まで
休館日 月曜日
年間の休館日カレンダー
会場 大津市歴史博物館 常設展示室2階
開館時間 9時〜17時(展示室への入場は16時30分まで)
観覧料 常設展示観覧料でご覧いただけます
一般:330円(260円) 高校生・大学生:240円(190円) 小学生・中学生:160円(130円)
※( )内は15名以上の団体料金
詳しくは利用のてびきへ
備考 速報展示作品の写真撮影はご遠慮ください。


  

展示作品

 

  
  

観音菩薩立像(かんのんぼさつりゅうぞう) 1躯
木造古色 一木造 平安時代(9世紀) 像高99.3cm

観音菩薩立像

 比叡山延暦寺の横川飯室谷(よかわいむろだに)の山坊、松禅院に安置されていた像です。
 姿を見ていくと、頭部には太くて低い髻(もとどり)を表し、その前面を囲うように宝冠をかぶっています。その下の地髪部は疎ら彫(まばらぼり)とし髪束を表しています。丸い面相に弧を描く眉とその下に表される球形の眼窩(がんか)に、抑揚を少なく小さめに切りつけたまぶたを表し、黒目を陽刻しています。太めの鼻は鼻筋が通り、小さ目の唇は立体感があります。口角を若干上げ、ささやかな微笑みが感じられます。耳は長さ、幅ともに大きく鬢髪(びんぱつ)が間を渡っています。体躯はいかり肩で、やや寸胴な印象をあたえますが、臀部(でんぶ)を大きめにしてメリハリをつけています。胸のくびれを紐状に表すのは珍しい表現で、意匠的です。両肩から天衣をかけていますが、片方を膝前に垂らし、もう片方を後方にまわす図像や、裙(くん、巻きスカート)の折返しの正面や条帛(じょうはく)の下縁などに「品字」形の意匠を表すところなどは、8世紀後半から9世紀前半によくみられる特徴です。手先を除いて頭頂から台座の蓮肉までを針葉樹の一木より彫り出し、ずんぐりとしたプロポーションも9世紀に流行しました。
 横川飯室谷は、慈覚大師円仁がここで修行をしていた時に、飯櫃(ぼんき)童子が現れて食べ物を献じたという伝説からこの名前が名づけられたといいます。まさに本像は円仁が活躍した9世紀中頃に造像されたと考えられ、比叡山の中でも屈指の古像ということができます。


 

地蔵菩薩立像(じぞうぼさつりゅうぞう) 1躯
木造古色 一木造 平安時代(10世紀前半) 像高61.5cm

地蔵菩薩立像

 観音菩薩立像とともに松禅院に伝来した地蔵菩薩立像です。
 細長い楕円形(だえんけい)の、しかも前後に奥行きが深い特徴的な頭部を持っています。その頭部に目鼻口を下方に集めており、さらに顎(あご)を短く表すことで幼児の顔のような印象を与えます。一方、彫りが深い眉(まゆ)からつながる鼻は鼻梁(びりょう)が高く、伏し目がちでありながら目尻を上げるさまは厳しい表情といえるでしょう。鼻と口の幅は狭いものの、抑揚(よくよう)があり立体感があります。耳はきわめて低い位置にあり、太めの耳輪(じりん)によってしっかりとした表現となっています。体部はなで肩で全体に腰高なプロポーションで、結果的に短めの腕と、胸と腹の位置がかなり上方にあることになります。両肩や袖(そで)、腹部、さらに股(また)と大腿部(だいたいぶ)のふくらみにより表されるX字形の衣文などの彫りは切れ味があり、リズム感があります。
 構造は、頭頂から足ほぞまでを針葉樹の一木から彫出し、両手先と右袖先に別材を矧(は)いでいます。内刳(うちぐり)を施こさず、木心をこめているため干割れが目立ちますが、それ以外の保存は良好です。衲衣(のうえ、袈裟)と覆肩衣(ふっけんえ)からなる胸の開きはかなり狭く、その下方に胸と腹のくびれを陰刻によって表していますが、京都の壬生寺の地蔵菩薩立像や西教寺所蔵薬師如来立像など、10世紀前半の一木造彫刻に見られる表現です。鎬(しのぎ)だつ衣文(えもん)の彫りやその重量感は見ごたえがあり、本像もその頃の造像とすることが可能でしょう。
 その頃の横川や飯室谷の様子は資料がなく不明ですが、延暦寺としては円珍没後にの弟子たちが活躍していた時期で、積極的な造像活動が行われていたことが本像から想像できるでしょう。比叡山に残る地蔵菩薩の古像としても貴重な像ということができます。