大津市の比叡山延暦寺は、平安中期に恵心僧都源信が『往生要集』を著して以来、我が国の「浄土教」の中心地として著名でした。ここで修行した後、阿弥陀の浄土信仰を広めたのが法然上人(法然房源空)です。もっぱら阿弥陀如来の誓願を信じて「南無阿弥陀仏」の名を唱える人はみな極楽往生できるという画期的な信仰でした。さらにその弟子の親鸞聖人はわかりやすく念仏を広め、この後我が国の仏教は、浄土教を中心に広く展開していくこととなりました。本年は、浄土宗開祖の法然上人が入滅して800年、さらには浄土真宗の祖、親鸞聖人も、今年が入滅して750年の節目の年にあたります。
本展では、それらを記念して、大津における浄土信仰の流れを追い、そして様々な阿弥陀如来像の姿や、後の阿弥陀如来の姿のスタンダードを創出した仏師快慶・行快一派の作例を観覧し、さらには大津市内に所在する浄土宗寺院の寺宝の数々を紹介します。新発見を含む多数の初公開寺宝をお見逃しなくご覧ください。
今回の展示では、100件を超える文化財が並びますが、重要文化財や県・市指定といった指定文化財はあまり展示せず、ほとんど未指定作品です。それは、大津市にはまたまだ専門家が目にしていない優品がたくさん埋もれており、そのように文化財的に眠っている宝物にスポットを当て、紹介するのが当館の役目だからです。今回展示する宝物のうち、約4割が初出陳です。また、当館でしか過去に展示されていない今回2回目という像もたくさんあります。指定文化財はおそらく別の機会、施設で拝見することができるでしょうし、もうすでにお目にかかったことがあるかもしれません。ですが、未指定作品の優品は残念ながらあまり知られていないため、なかなか展示されることがありません。まさに当館でしか会えない仏さまをぜひご堪能いただき、我が国の宝物を造り伝える文化の力を感じていただけましたら幸いです。(学芸員 寺島典人)
最澄、円仁、源信といった比叡山で活躍した高僧の姿と法華経、往生要集などを紹介します。
絹本著色天台・伝教・慈覚大師像 大津市坂本・延暦寺山内寺院(天台宗)蔵 |
紺紙金字無量義経(法華三部経のうち) 大津市坂本本町・比叡山延暦寺(天台宗)蔵 |
■絹本著色天台・伝教・慈覚大師像 大津市坂本・延暦寺山内寺院(天台宗)蔵〈鎌倉時代〉
昨年再発見された、天台大師と伝教大師、慈覚大師の三人を山中に表した大変珍しい画像です。
■紺紙金字無量義経(法華三部経) 大津市坂本本町・比叡山延暦寺(天台宗)蔵〈平安時代〉
延暦寺に伝わった無量義経で、紺紙に金泥で見返し絵や文字を表した華麗なものです。
大津の比叡山西塔黒谷と関係の深い、浄土宗の開祖、法然上人に関わる宝物を紹介します。
木造法然上人立像 大津市伊香立下在地町・新知恩院(浄土宗)蔵 |
版本選択本願念仏集 大津市伊香立下在地町・新知恩院(浄土宗)蔵 |
■木造法然上人立像 大津市伊香立下在地町・新知恩院(浄土宗)蔵〈鎌倉時代〉
京都の知恩院が応仁の乱を避けて大津の伊香立に建立した新知恩院には、多くの宝物が伝来しています。本像は小像ながら写実的な相貌、彫のしっかりした衣文、バランスの良い体躯の表現などから鎌倉後期に造像された貴重な法然上人像です。県内初公開。
■版本選択本願念仏集 大津市伊香立下在地町・新知恩院(浄土宗)蔵〈室町時代〉
法然上人が著述した「選択本願念仏集」はその後多くの人々に読み継がれ、版本も多く作られました。本作は、新知恩院を創った知恩院第21世周誉上人の手沢の本です。細かな書入れが上人の使用の様子がよくわかります。県内初公開。
(勢至菩薩像) |
(阿弥陀如来像) 木造阿弥陀如来及び両脇侍蔵 大津市坂本本町・比叡山延暦寺[青龍寺](天台宗)蔵 |
(観音菩薩像) |
■木造阿弥陀如来及び両脇侍像 大津市坂本本町・比叡山延暦寺[青龍寺](天台宗)蔵 〈鎌倉時代〉
法然上人が修業した地、比叡山延暦寺の別所、西塔の青龍寺報恩蔵に安置の像。法然上人はここで善導大師が著した「観無量寿経疏」を見て、阿弥陀の誓願に気づきました。そのゆかりの地に伝わる阿弥陀像です。 初公開。
大津の比叡山無動寺や、園城寺、近松、堅田など、浄土真宗の親鸞聖人や蓮如上人に関する宝物を紹介します。
木造親鸞聖人坐像 大津市坂本本町・比叡山延暦寺[無動寺大乗院](天台宗)蔵 |
■木造親鸞聖人坐像 大津市坂本本町・比叡山延暦寺[無動寺大乗院](天台宗)蔵
親鸞聖人が修業した地、比叡山の大乗院につたわる親鸞聖人像。上人が六角堂に参拝中、その行動をあやしんだ無動寺僧が、抜き打ちでそばを食べる会を催した際、親鸞の身代わりになってそばを食べたという「蕎麦喰い親鸞」像です。県内初公開。
絹本著色蓮如上人絵伝 大津市小関・等正寺(真宗大谷派)蔵 |
■絹本著色蓮如上人絵伝 大津市小関・等正寺(真宗大谷派)蔵〈室町時代〉
園城寺の南別所の地、蓮如上人と堅田源兵衛伝説ゆかりの等正寺には、蓮如上人の生涯を描いた珍しい絵伝が伝わっています。初公開。
比叡山延暦寺の別所、西塔の青龍寺で修行したのち、西教寺を復興し、念仏と戒律をもとに一派を創った真盛上人ゆかりの宝物を紹介。
木造身代わりの手白猿 大津市坂本・西教寺(天台真盛宗)蔵 |
紙本著色真盛上人絵伝 大津市坂本・西教寺(天台真盛宗)蔵 |
■木造身代わりの手白猿 大津市坂本・西教寺(天台真盛宗)蔵
延暦寺の僧兵が西教寺を攻めたとき、真盛上人の身代わりとなって本堂で鉦をたたいていたという猿の像です。
■真盛上人絵伝 大津市坂本・西教寺(天台真盛宗)蔵〈江戸時代〉
真盛上人の生涯を絵と詞で記した巻物です。
観無量寿経をもとに表した、通常「当麻曼荼羅」とも呼ばれる「観経変相図」。法然上人の弟子、証空上人が広めた、阿弥陀如来の住む世界、西方極楽浄土の様子を紹介します。
絹本著色観経変相図 大津市坂本・滋賀院(天台宗)蔵 |
絹本著色観経変相図 大津市伊香立上在地町・金蓮寺(浄土宗)蔵 |
■絹本著色観経変相図 大津市坂本・滋賀院(天台宗)蔵 〈鎌倉時代〉
比叡山の麓、坂本にある天台宗の門跡寺院、滋賀院の伝来本です。初公開。
■絹本著色観経変相図 大津市伊香立上在地町・金蓮寺(浄土宗)蔵 〈室町時代〉
京都の知恩院が応仁の乱を避けてまず入った寺院、金蓮寺に伝来したものです。
大津市内に現存する、普段拝観できない阿弥陀如来像の数々を紹介します。
木造阿弥陀如来坐像 大津市園城寺町・園城寺(天台宗寺門)蔵 |
木造阿弥陀如来坐像 大津市苗鹿・法光寺(天台宗)蔵 |
重要文化財 木造化仏 大津市坂本・西教寺(天台真盛宗)蔵 |
■木造阿弥陀如来坐像 大津市園城寺町・園城寺(天台宗)蔵〈平安時代〉
造像当初から阿弥陀如来像であったかは不明ながら、9世紀にまでさかのぼる、現存する大津市最古の阿弥陀如来像です。
■木造阿弥陀如来坐像 大津市苗鹿・法光寺(天台宗)蔵〈平安時代〉
一木造で古様を示す像で、10世紀の造像です。初公開。
■重要文化財 木造化仏 大津市坂本・西教寺(天台真盛宗)蔵〈平安時代〉
西教寺の本尊、丈六の阿弥陀如来坐像の光背に付属する12体の化仏の一つ。院政期の優雅な作風を持っています。
(勢至菩薩像) |
(阿弥陀如来像) 木造阿弥陀如来及び両脇侍像 大津市坂本・世尊寺(天台宗)蔵 |
(観音菩薩像) |
■木造阿弥陀如来及び両脇侍像 大津市坂本・世尊寺(天台宗)蔵〈平安時代・脇侍:鎌倉時代〉
中尊は、体の厚みが薄く、浅い衣文、穏やかな作風は平安時代後期、12世紀の作。脇侍は、にぎやかな髻や、やや陰鬱な表情から鎌倉時代中期の院派の珍しい作例です。初公開。
木造阿弥陀如来立像 大津市小関・等正寺(真宗大谷派)蔵 |
木造阿弥陀如来立像 大津市坂本・西教寺徳乗坊(天台真盛宗)蔵 |
木造阿弥陀如来立像 大津市八屋戸・西福寺(天台真盛宗)蔵 |
■木造阿弥陀如来立像 大津市小関・等正寺(真宗大谷派)蔵〈鎌倉時代〉
丸い面相や浅い衣文、穏やかな雰囲気といった平安時代の作風を残しつつも、写実味がまししっかりとした表情は、鎌倉時代の京都仏師の作である可能性があります。初公開。
■木造阿弥陀如来立像 大津市坂本・西教寺徳乗坊(天台真盛宗)蔵〈鎌倉時代〉
西教寺の山内にある坊に伝来。鎌倉時代中期の優作です。初公開。
■木造阿弥陀如来立像 大津市八屋戸・西福寺(天台真盛宗)蔵〈鎌倉時代〉
現存する文化財が比較的少ない旧志賀町域に伝わった、貴重な鎌倉時代中期の像です。初公開。
(右脇侍) |
(阿弥陀如来像) 重要文化財 木造阿弥陀如来及び脇侍像 大津市真野谷口町・西勝寺(天台真盛宗)蔵 |
(左脇侍) |
■重要文化財 木造阿弥陀如来及び両脇侍像 大津市真野谷口町・西勝寺(天台真盛宗)蔵〈鎌倉時代〉
中尊は、納入品から建仁3年(1203)の作と判明しています。脇侍は鎌倉後期の堅実な作です。脇侍は初公開。
重要文化財 絹本著色阿弥陀二十五菩薩来迎図 大津市伊香立下在地町・新知恩院(浄土宗)蔵 |
絹本著色阿弥陀三尊来迎図 大津市伊香立南庄町・光明寺(浄土宗)蔵 |
絹本著色阿弥陀八大菩薩像 大津市坂本・滋賀院(天台宗)蔵 |
■重要文化財 絹本著色阿弥陀二十五菩薩来迎図 大津市伊香立下在地町・新知恩院(浄土宗)蔵〈鎌倉時代〉
大津を代表する阿弥陀来迎図の一つです。体をくねらせて踊りながら往生者に近づく菩薩の様子が印象的です。
■絹本著色阿弥陀三尊来迎図 大津市伊香立南庄町・光明寺(浄土宗)蔵〈鎌倉時代〉
繊細な筆致と截金文様は秀逸です。初公開。
■絹本著色阿弥陀八大菩薩像 大津市坂本・滋賀院(天台宗)蔵〈高麗時代〉
高麗仏画は世界に150例ほどしか現存していません。本画は、近年発見された珍しく、大変貴重な作例です。
阿弥陀如来は様々な姿が知られています。ここでは、比叡山発祥の「宝冠阿弥陀」や、全国的に作例の少ないものの、大津に多く残る「逆手阿弥陀」などを紹介します。
銅造阿弥陀如来及び両脇侍像 大津市木戸・安養寺(浄土宗)蔵〈鎌倉時代〉 |
木造宝冠阿弥陀如来坐像 京都市・悲田院(真言宗泉涌寺派)蔵 |
■銅造阿弥陀如来及び両脇侍像 大津市木戸・安養寺(浄土宗)蔵〈鎌倉時代〉
長野市・善光寺の本尊は、飛鳥時代に大陸からもたらされた金銅仏の阿弥陀三尊です。霊験仏として多くの模刻が作られました。本像は県内に残る優品の一つです。※中尊は江戸時代の補作。
■木造宝冠阿弥陀如来坐像 京都市・悲田院(真言宗泉涌寺派)蔵〈鎌倉時代 快慶作〉
宝冠阿弥陀如来は、比叡山発祥の常行三昧堂の本尊の形です。全国でも十数例しか知られていません。本像は、頭部内内刳面に「アン(梵字)阿弥陀仏」を中心として墨書銘があり、快慶の無位時代の作と考えられます。
大津市指定文化財 木造阿弥陀如来立像 大津市坂本・西教寺(天台真盛宗)蔵 |
木造阿弥陀如来立像 大津市坂本・盛安寺(天台真盛宗)蔵 |
木造阿弥陀如来立像 京都市・大超寺(浄土宗)蔵 |
■大津市指定文化財 木造阿弥陀如来立像 大津市坂本・西教寺(天台真盛宗)蔵〈鎌倉時代〉
12世紀後半から13世紀にかけて、中国・宋から請来された図像が「逆手」の阿弥陀像です。通常の阿弥陀像と両手の上げ下げが逆のもので、造像されたのも鎌倉初期〜中期にほぼ限定されているため現存例が全国でも十数例しかありません。このうち大津には4件ほど知られています。本像はその1体で、独特の雰囲気を持っています。
■木造阿弥陀如来立像 大津市坂本・盛安寺(天台真盛宗)蔵〈鎌倉時代〉
本像は、胸前で両手をあげる「もろ手」ともいうべき姿の阿弥陀像です。いわゆる「説法印」の立像なのですが、お寺では「片袖の阿弥陀」として呼ばれています。
■木造阿弥陀如来立像 京都市・大超寺(浄土宗)蔵〈鎌倉時代〉
本像の右腕には覆肩衣という衣をつけていますが、通常腕の内外に長く懸けるところ、本像では外側が極端に短いスタイルです。これは地蔵菩薩ではまま見られるものの、阿弥陀如来では極めて珍しい形です。また、着衣に表された盛上彩色も豪華絢爛です。初公開。
鎌倉時代に快慶が創始した「安阿弥様」の阿弥陀如来立像。浄土系寺院の本尊は大方この形を踏襲していき全国に広がりました。昨年夏に当館の調査で西教寺大本坊から見つかった、快慶の一番弟子「行快」作の阿弥陀三尊像をはじめとして、今春に当館の調査で見つかったばかりの長浜市・浄信寺像(法橋時代の行快作)や、亀山市・遍照寺像、西岸寺像など、ここでは快慶・行快一派の阿弥陀像を並べます。快慶・行快工房の作風を伺うことができるでしょう。
(勢至菩薩像) |
(阿弥陀如来像) 木造阿弥陀如来及び両脇侍像 大津市坂本・西教寺(天台真盛宗)蔵 |
(観音菩薩像) |
■木造阿弥陀如来及び両脇侍像 大津市坂本・西教寺(天台真盛宗)蔵〈鎌倉時代 行快作〉
昨年の当館の調査で、観音菩薩像の足ほぞにある墨書銘「工匠法橋行快」から、行快の法橋時代の造像と分かった像。
木造阿弥陀如来立像 長浜市・浄信寺(時宗)蔵 |
重要文化財 木造阿弥陀如来立像 大津市和邇中・西岸寺(浄土宗)蔵 |
木造阿弥陀如来立像 大津市京町・華階寺(浄土宗)蔵 |
■木造阿弥陀如来立像 長浜市・浄信寺(時宗)蔵〈鎌倉時代 行快作〉
今年の当館の調査で、作風と足?にある墨書銘「■■(工匠か)法橋行」から、行快の法橋時代の造像と分かった像。初公開。
■重要文化財 木造阿弥陀如来立像 大津市和邇中・西岸寺(浄土宗)蔵〈鎌倉時代〉
旧志賀町唯一の重要文化財。行快工房の作風が顕著で、頭部が大きめで肉髻を低く表すなど個性的です。
■木造阿弥陀如来立像 大津市京町・華階寺(浄土宗)蔵〈鎌倉時代〉
行快工房の作風がみられますが、ところどころ別の個性も見られ、当時の工房制作の興味深さが垣間見れます。
展覧会を開催するにあたって、今回、浄土宗滋賀教区大津組と湖南組のご協力を得て、大津市内の浄土宗寺院のご宝物の調査をすすめさせていただきました。数が多いので展示までに全てをまわることはできませんでしたが、それでも多くの新発見がありました。また、市内の浄土宗西山禅林寺派の寺院にも人知れず古像が伝来していました。今回の展覧会では、その成果の一端をご覧いただけることとなります。
大津市指定文化財 木造阿弥陀如来立像 大津市月輪・新福寺蔵 |
重要文化財 木造聖観音立像 大津市京町・乗念寺蔵 |
■大津市指定文化財 木造阿弥陀如来立像 大津市月輪・新福寺蔵〈平安時代〉
10世紀にさかのぼるボリューム感あふれる一木造の立像です。瀬田地域最古の仏像です。
■重要文化財 木造聖観音立像 大津市京町・乗念寺蔵〈平安時代〉
10世紀制作の等身大観音像で、旧大津町に伝わる指折りの古像です。
(勢至菩薩像) |
(阿弥陀如来像) 木造阿弥陀如来及び両脇侍 大津市別保・西念寺蔵 |
(観音菩薩像) |
■木造阿弥陀如来及び両脇侍像 大津市別保・西念寺蔵〈鎌倉時代〉
今まで全く知られていなかった鎌倉時代中期の阿弥陀三尊像です。初公開。
(勢至菩薩像) |
木造阿弥陀如来及び両脇侍像 (阿弥陀如来像) 大津市春日町・西福寺蔵 |
(観音菩薩像) |
観音菩薩蔵・光背 |
勢至菩薩蔵・光背 |
■木造阿弥陀如来及び両脇侍像 大津市春日町・西福寺蔵〈鎌倉時代〉
鎌倉時代中期の阿弥陀三尊像で、脇侍の光背は、金銅製のみごとなものです。(写真ははずしています)
木造薬師如来坐像 大津市伊香立下在地町・新知恩院蔵 |
木造阿弥陀如来立像 大津市伊香立南庄町・光明寺蔵 |
■木造薬師如来坐像 大津市伊香立下在地町・新知恩院蔵〈平安時代〉
半丈六の大きさの薬師如来坐像。丸い面相に浅い衣文、内刳りを深く施すところなどから12世紀中ごろの制作です。初公開。
■木造阿弥陀如来立像 大津市伊香立南庄町・光明寺蔵〈鎌倉時代〉
球体の面部に意志の強い相貌は、鎌倉時代初期〜中期の南都仏師による制作を思わせます。その特殊な構造や体内の墨書銘も含めて、大変興味深い作例です(下記参照)。初公開。
今回の展覧会開催にあたり修復を伴う調査も行われ、いくつかの新発見がありました。
納入品 |
解体状況 |
まず、大津市松本・西方寺(浄土宗)の阿弥陀如来立像の頭部の前面材を外すと、ちょうど頭の脳のあたりに蓋状のものがありました。そしてその中に小孔があり、ちょうどはまるように銀製鍍金の合子が入っていました。合子は底面が平滑なほか、ほぼ球形をしており、宝珠のような形です。頭の中に金属製の宝珠を入れるのは珍しい例といえます。
納入品「結縁交名(開封前) |
同(開封後) |
次に、長浜市・浄信寺(浄土宗)の阿弥陀如来立像は、像内内刳の足元に巻子状のものが2巻納入されていました。開封作業と内容の分析はまだ途中ですが、「南無阿弥陀仏 一万遍 為平能弘」などといった数千人もの結縁交名で、多数の人々の結縁で造像されたことがわかります。
胎内墨書銘 |
戯画(表) |
戯画(裏) |
それ以外にも、大津市伊香立南庄町・光明寺の阿弥陀如来立像の胎内にも「僧盛慶」「僧実慶」などといった墨書銘が出ており、これらの人名についての謎の解明はこれからです。また、本像で使用されていた部材からは、天部もしくは邪鬼の顔を描いた、鎌倉時代の戯画(いたずら書き)とも思われる絵が発見されました。
展覧会ではこれらの納入品を展示しますが、展示後に像内に戻す可能性があり、お披露目は今回が最初で最後かもしれません。お見逃しなく。(学芸員 寺島典人)
展覧会期間中、作品の展示替えを行ないます。以下の展示作品一覧に、展示替え予定を掲載しておりますのでご確認ください。なお、所蔵者のご都合等により、急遽展示替えや展示とりやめを行なう場合がございますので、あわせてご了承ください。
【展示作品一覧(展示替え情報含む・予定)のダウンロードはこちら。PDFファイル、227KB】
展覧会をより深くご理解いただくため、期間中さまざまな講座を開催いたします。
詳しくは、講座・講演会情報をご覧下さい。
タイトル | 第59回企画展「阿弥陀さま−極楽浄土への誓い−」 |
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会期 | 平成24年 10月13日(土)〜11月25日(日) |
期間中の休館日 | 10月15日(月)、22日(月)、29日(月) 11月5日(月)、12日(月)、19日(月) |
会場 | 大津市歴史博物館 企画展示室A・B |
主催 | 大津市・大津市教育委員会・大津市歴史博物館・京都新聞社 |
特別協力 | 延暦寺・園城寺・西教寺・浄土宗・浄土宗滋賀教区大津組・浄土宗滋賀教区湖南組・浄土宗西山禅林寺派滋賀県宗務支所(五十音順) |
観覧料 | 一般1,000円(800円) 高校・大学生500円(400円) 小中学生 無料 ※( )内は、前売、15名様以上の団体。および、大津市内在住の 65歳以上の方、大津市内在住の障害者の方の割引料金(証明するものをご提示ください)。 ※各館の観覧券の半券持参者は、団体割引適用 |
前売券 | 前売券は、大津市観光案内所(大津駅・石山駅・堅田駅前)、大津市民会館、ローソンチケット(Lコード:59867)をはじめ、京阪津地区の主なプレイガイドで9月11日から発売。 |