古代日本の中心地の飛鳥から、天智天皇は近江国の大津に都を遷しました。それが近江大津宮(いわゆる大津京)です。この都が風光明媚な琵琶湖畔に造営されたのは天智天皇6年(667)のことで、本年はそれからちょうど1350年の節目の年になります。今回はそれを記念して、大津宮とそれに関連深い寺院からみつかった遺物や仏教美術を集めた展覧会、「大津の都と白鳳寺院」を開催します。
淡海とも呼ばれる美しい琵琶湖と、周囲を比叡山や長等山をはじめとした霊山に囲まれた近江国大津。瀬田川や古代の街道などが交わる我が国屈指の交通の要所であり、重要な文物や情報の集積地だったこの大きな港に、天智天皇は大きな可能性を期待して遷都しました。この頃の東アジア情勢は、朝鮮半島を中心に激動の時を迎えており、たくさんの大陸の人々が来訪し、国の存続をかけた政治的な駆け引きがこの都で行われていたことでしょう。天智天皇は672年に没して近江大津宮は5年半ほどで廃都となり、後にその正確な場所や呼び名さえもよくわからなくなります。幻の都と呼ばれる所以です。一方で、大陸との活発な交流の中で、魅力的な仏教文化が花開いた近江大津宮では、宮殿の中にも仏殿が造られたのをはじめ、多くの白鳳寺院が建立されました。その跡から発掘された数々の興味深い遺物は、大津宮の様子を伝えてくれる数少ない語り部と言ってもいいでしょう。
本展では、古代ロマンあふれる大津の出土遺物や、瑞々しい白鳳時代の仏教美術をはじめとした数々の文化財を紹介します。これらの貴重な宝物をご覧いただき、謎に包まれた大津宮や、東アジアで屈指の美しさを誇る仏教文化に思いをはせ、古代国際都市、古都大津の魅力を感じていただければ幸いです。
最後になりましたが、本展を開催するにあたり、貴重なご宝物の出品をご快諾いただきましたご所蔵者のみなさま、ご協力いただきました関係各位に感謝申し上げます。
※会期中展示替えがあります。
タイトル | 企画展「大津の都と白鳳寺院」 |
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会期 | 平成29年 10月7日(土)〜11月19日(日) |
開館時間 | 9時〜17時(展示室への入場は16時30分まで) |
休館日 | 月曜日(10月9日を除く)、10月10日 |
会場 | 大津市歴史博物館 企画展示室A・B |
主催 | 大津市、大津市教育委員会、大津市歴史博物館、京都新聞 |
協力 | 石山寺、近江神宮、園城寺、比叡山延暦寺、湖信会、対馬市、対馬市教育委員会、 |
特別協力 | 大阪大学日本・東洋美術史研究室 |
後援 | NHK大津放送局、BBCびわ湖放送、エフエム滋賀、エフエム京都 |
観覧料 | 一般:1,000円(800円) 高校生・大学生600円(480円) 小学生・中学生200円(160円) ※( )内は、前売り、15名以上の団体割引、または大津市内在住の65歳以上の方、市内在住の障がい者の方、市内在住の介護保険の要介護者・要支援者の方の割引料金(証明するものをご提示ください)。 |
前売券 | 前売券は、大津市観光案内所(JR大津駅・石山駅・堅田駅前)、大津市民会館、ローソンチケット(Lコード:54852)をはじめ、京阪津地区の主なプレイガイドで9月12日から11月19日まで発売。 |
企画展「大津の都と白鳳寺院」リーフレット 【ダウンロードはこちら(PDF、1110KB)】
企画展「大津の都と白鳳寺院」展示作品一覧 【ダウンロードはこちら(PDF、346KB)】
近江・大津には、大津遷都以前から、朝鮮半島や中国大陸から渡ってきた渡来系の人々が暮らしていました。大津では、6〜7世紀頃の渡来文化を示す出土品が確認されています。この渡来人たちの技術や文化的な地盤がすでにこの地にあったことが、近江・大津に宮がつくられた理由のひとつと考えられています。
金銅製釵子と釧(大谷遺跡B号墳出土)
古墳時代 大津市埋蔵文化財調査センター保管
ミニチュア炊飯具と小型土器(太鼓塚3号墳出土)
古墳時代 大津市埋蔵文化財調査センター保管
飛鳥時代、難波遷都と大津遷都をはさみながらも、飛鳥の地に続けて宮殿が築かれていました。舒明天皇の飛鳥岡本宮、皇極天皇の飛鳥板蓋宮、斉明天皇の後飛鳥岡本宮、天武・持統天皇の飛鳥浄御原宮です。ちなみに、舒明天皇は天智の父親、皇極天皇(2度目の即位では斉明天皇)は天智の母親、天武天皇は天智の弟、持統天皇は天智の娘にあたります。
飛鳥宮跡V期造営期(後飛鳥岡本宮)の須恵器・土師器
飛鳥宮跡出土品
飛鳥時代 奈良県立橿原考古学研究所附属博物館蔵
飛鳥浄御原宮の正殿復元模型
奈良県立橿原考古学研究所附属博物館蔵
皇極天皇の治世、645年、中大兄皇子(後の天智天皇)と中臣鎌足らが蘇我本宗家を滅ぼした乙巳の変が起こります。そして、中大兄皇子の叔父にあたる孝徳天皇が即位することになります。この時、都は飛鳥を離れ、難波に移りました。孝徳天皇の難波長柄豊碕宮にあたるとされる前期難波宮は、発掘調査が進み、多くの建物跡や遺物が確認されています。
戊申年木簡 飛鳥時代
展示は複製品:大阪市教育委員会・大阪文化財研究所蔵
写真は原品:大阪府教育委員会蔵、大阪府文化財センター提供
小型鴟尾・小型丸瓦
飛鳥時代 大阪市教育委員会・大阪文化財研究所蔵
天智天皇6年(667)3月19日条には「都を近江に遷す」とあります。母親である斉明天皇の崩御の後、即位をしないまま政治をおこなっていた中大兄皇子は、後飛鳥岡本宮から近江大津宮へ遷り、その翌年即位しました。ここでは、近江大津宮中枢部が確認された錦織遺跡の調査成果をパネル展示し、天智天皇ゆかりの資料を展示します。
天智天皇坐像
江戸時代 大津市三井寺町・大練寺蔵
大津宮中枢部復元模型
本館蔵 常設展示室2階に展示
藤原(中臣)鎌足は、中大兄皇子(天智天皇)を補佐し、政権の中心にいた重要な人物です。その死の間際には、天智天皇から、当時の最上位となる大織冠と、藤原の姓を授けられています。藤原鎌足ゆかりの資料を展示します。
阿武山古墳から出土した冠帽の復元品
高槻市立今城塚古代歴史館蔵
重要文化財 十一面観音立像
多武峰伝来
唐時代 東京国立博物館蔵
大友皇子(弘文天皇、648〜672)は、天智天皇と伊賀采女宅子娘の間に生まれた皇子です。天智天皇崩御後、後を継いで天皇としての行為を行いました。しかし、叔父の大海人皇子が謀反をおこし(壬申の乱)、672年7月22日に勢田橋の闘いで敗戦し、翌日に自決しました。ここではゆかりの資料を展示します。
大友皇子像
江戸時代
大津市西の庄・法傳寺蔵
僧形神坐像(大友与多王像)
平安もしくは室町時代
大津市西の庄・法傳寺蔵
唐橋遺跡出土品 無文銀銭
飛鳥時代
滋賀県立琵琶湖博物館蔵
大津市内には、大津宮と同時期の7世紀後半に建立された白鳳寺院が目立ちます。特に、天智天皇建立と伝わる崇福寺や、奈良県・川原寺に匹敵する大寺院であった南滋賀町廃寺、大津宮の時期に方位を合わせて建て替えがおこなわれたとみられる穴太廃寺からは、白鳳期の瓦、塑像、せん仏などが数多く出土しています。このような大津市の白鳳寺院について出土品を中心に紹介します。
複弁蓮華文軒丸瓦 崇福寺出土
白鳳時代 滋賀県立琵琶湖文化館蔵
蓮華文方形軒瓦
長尾瓦窯出土
白鳳時代
滋賀県埋蔵文化財センター蔵
大津市指定文化財 せん仏断片 崇福寺出土
白鳳時代 大津市神宮町・近江神宮蔵
大津市指定文化財
銅椀 崇福寺出土
平安時代
大津市神宮町・近江神宮蔵
重要文化財 十一面観音立像
崇福寺旧仏 平安時代
大津市園城寺町・園城寺蔵
大津市指定文化財 塑像断片
南滋賀町廃寺出土
白鳳時代 大津市神宮町・近江神宮蔵
大津市指定文化財 蓮華文方形軒瓦
南滋賀町廃寺出土
白鳳時代 大津市神宮町・近江神宮蔵
大津市指定文化財 方形軒平瓦
南滋賀町廃寺出土
白鳳時代 大津市神宮町・近江神宮蔵
大津市指定文化財 複弁蓮華文軒丸瓦
白鳳時代
大津市神宮町・近江神宮蔵
大津市指定文化財 単弁蓮華文軒丸瓦
白鳳時代
大津市神宮町・近江神宮蔵
単弁蓮華文軒丸瓦
白鳳時代
西宮市・黒川古文化研究所蔵
大津市指定文化財 複弁蓮華文軒丸瓦
白鳳時代
大津市神宮町・近江神宮蔵
大津市指定文化財 単弁蓮華文軒丸瓦
白鳳時代
大津市神宮町・近江神宮蔵
単弁蓮華文軒丸瓦
白鳳時代
西宮市・黒川古文化研究所蔵
銀製押出仏断片
穴太廃寺出土
白鳳時代
滋賀県立安土城考古博物館蔵
せん仏断片
穴太廃寺出土
白鳳時代
滋賀県立安土城考古博物館蔵
鴟尾
穴太廃寺出土
白鳳時代
滋賀県埋蔵文化財センター蔵
塑像断片
穴太廃寺出土
白鳳時代
大津市埋蔵文化財調査センター保管
単弁蓮華文軒丸瓦
穴太廃寺出土
白鳳時代
滋賀県埋蔵文化財センター蔵
素文方形軒瓦
穴太廃寺出土
白鳳時代
滋賀県埋蔵文化財センター蔵
軒丸瓦・軒平瓦
坂本八条遺跡出土
白鳳時代 大津市埋蔵文化財調査センター保管
弥勒菩薩半跏像
朝鮮三国もしくは白鳳時代
比叡山延暦寺蔵
如意輪観音半跏像
朝鮮三国時代
京都市・妙傳寺蔵
大津市指定文化財 複弁蓮華文軒丸瓦
園城寺金堂出土
白鳳時代 大津市園城寺町・園城寺蔵
大津市指定文化財 瓦断片
園城寺金堂出土
白鳳時代 大津市園城寺町・園城寺蔵
単弁八弁蓮華文軒丸瓦 真野廃寺出土
白鳳時代
大津市埋蔵文化財調査センター保管
塑像断片 真野廃寺出土
白鳳時代
大津市埋蔵文化財調査センター保管
単弁蓮華文軒丸瓦 衣川廃寺出土
白鳳時代 大津市埋蔵文化財調査センター保管
瓦塔断片 衣川廃寺出土
白鳳時代 大津市埋蔵文化財調査センター保管
複弁蓮華文軒丸瓦 大津廃寺出土
白鳳時代 大津市埋蔵文化財調査センター保管
複弁蓮華文軒丸瓦 大津廃寺出土
白鳳時代 大津市埋蔵文化財調査センター保管
複弁八弁蓮華文軒丸瓦 膳所廃寺出土
白鳳時代 大津市中の庄・法傳寺蔵
重弧文軒平瓦 膳所廃寺出土
白鳳時代 大津市中の庄・法傳寺蔵
壬申の乱の激戦地、瀬田橋のすぐ近くにある伽藍山。大津宮時代から石山寺の前身となる寺院があった可能性があります。
重要文化財 観音菩薩立像
白鳳時代 大津市石山寺町・石山寺蔵
単弁蓮華文軒丸瓦
白鳳時代 大津市石山寺町・石山寺蔵
瀬田川の水運を利用できる瀬田や田上は、白鳳時代には木材や製鉄などの生産地として開発されました。石居廃寺は田上にある白鳳寺院跡です。
大津市指定文化財 せん仏断片
白鳳時代 個人蔵
大津市指定文化財 せん仏断片
白鳳時代 個人蔵
大津市指定文化財 せん仏断片
白鳳時代 個人蔵
蓮華文軒丸瓦 東光寺遺跡出土
白鳳時代 大津市立瀬田小学校蔵
複弁蓮華文軒丸瓦 東光寺遺跡出土
白鳳時代 大津市立瀬田小学校蔵
重要文化財 鴟尾 山ノ神遺跡4号窯跡出土
白鳳時代 大津市埋蔵文化財調査センター保管
重要文化財 鴟尾と共に出土した須恵器
白鳳時代 大津市埋蔵文化財調査センター保管
壬申の乱の激戦地、瀬田橋のすぐ近くにある伽藍山。大津宮時代から石山寺の前身となる寺院があった可能性があります。
塑像断片 川原寺裏山遺跡出土
獣面(丑か)
目に嵌入のガラスが溶け出る
※塑像断片はいずれも 白鳳時代 明日香村教育委員会蔵
塑像断片 川原寺裏山遺跡出土
指(丈六仏)
塑像断片 川原寺裏山遺跡出土
神将形の甲
唐草文などの文様を描く
せん仏 川原寺裏山遺跡出土
白鳳時代 明日香村教育委員会蔵
せん仏 川原寺裏山遺跡出土
白鳳時代 明日香村教育委員会蔵
せん仏 川原寺裏山遺跡出土
白鳳時代 明日香村教育委員会蔵
国の特別史跡、山田寺は、蘇我馬子の孫、蘇我倉山田石川麻呂(〜649)によって発願され、天武天皇14年(685)頃に完成した白鳳寺院です。山田寺からは、当時の回廊や瓦、堂内の荘厳品、せん仏など多種多彩な遺物が発掘され、その多くは重要文化財に指定されています。今回は、瓦や鴟尾、金銅板に表された仏像、さまざまなせん仏を展示します。
鴟尾 山田寺跡出土
白鳳時代
高浜市やきものの里かわら美術館蔵
重要文化財 金銅板五尊像
山田寺出土 白鳳時代
奈良文化財研究所飛鳥資料館蔵
重要文化財 十二尊連坐せん仏
山田寺出土 白鳳時代
奈良文化財研究所飛鳥資料館蔵
7世紀中頃に伝来して大流行した、土を盛り上げて造る塑像。その柔らかい自然な質感は、表情豊かな造形をみせています。ここでは、近江の白鳳時代の塑像の白眉、雪野寺から出土した塑像断片を大量に展示します。特に最近確認された断片は初公開となります。
塑像断片 橘寺出土
白鳳時代 東京国立博物館蔵
火頭形三尊せん仏 橘寺出土
白鳳時代 奈良国立博物館蔵
せん仏笵 橘寺出土
白鳳時代 東京国立博物館
7世紀中頃に伝来して大流行した、土を盛り上げて造る塑像。その柔らかい自然な質感は、表情豊かな造形をみせています。ここでは、近江の白鳳時代の塑像の白眉、雪野寺から出土した塑像断片を大量に展示します。特に最近確認された断片は初公開となります。
塑像断片 童子の頭部
竜王町・雪野寺跡出土
白鳳時代 東近江市・福命寺蔵
塑像断片 等身大像の左目
竜王町・雪野寺跡出土
白鳳時代 東近江市・福命寺蔵
塑像断片 坐像の右足裏
竜王町・雪野寺跡出土
白鳳時代 京都大学総合博物館蔵
塑像断片 獣頭
竜王町・雪野寺跡出土
白鳳時代 京都大学総合博物館蔵
塑像断片 左肩から背面
天衣に彩色、胸飾りあり
竜王町・雪野寺跡出土
白鳳時代 東近江市・福命寺蔵
塑像断片 裙の裾 彩色あり
竜王町・雪野寺跡出土
白鳳時代 東近江市・福命寺蔵
薬師如来立像
唐時代 個人蔵
方形独尊坐像せん仏
北斉〜隋時代 奈良国立博物館蔵
如来型せん仏
隋〜唐時代 大和文華館蔵
三尊せん仏
堺市・太平寺出土
白鳳時代 大和文華館蔵
大型多尊せん仏
御所市・二光寺廃寺出土
白鳳時代 奈良県立橿原考古学研究所蔵
重要美術品 六角形せん仏
松阪市・天華寺出土
白鳳時代 奈良国立博物館蔵
朝鮮三国時代
東京国立博物館(小倉コレクション)蔵
菩薩立像
朝鮮三国時代 個人蔵
重要文化財 菩薩半跏像
白鳳時代 奈良県明日香村・岡寺蔵
菩薩半跏像
和歌山県那智山出土
白鳳時代 東京国立博物館蔵
十一面観音立像
和歌山県那智山出土
白鳳時代 東京国立博物館蔵
観音菩薩立像
白鳳時代 京都市・道澄寺蔵
如来坐像 永昌元年造立銘
唐時代 永昌元年(689) 京都国立博物館蔵
天王立像
飛鳥時代 東京藝術大学蔵
桓武天皇像
南北朝時代 比叡山延暦寺(比叡山国宝殿)蔵
重要文化財 薬師如来立像
白鳳〜奈良時代 大津市比叡辻・聖衆来迎寺蔵
展覧会をより深くご理解いただくため、期間中全9回の講座を開催いたします。
聴講には、事前申込が必要です。詳細は講座・講演会情報をご覧ください。
10月14日(土) | 大津宮を考えるために -継体・天智・聖武− |
10月15日(日) | 妙傳寺半跏思惟像が三国時代の作とわかるまで |
10月22日(日) | 大津京と京内寺院 |
10月28日(土) | 壬申の乱と山前 |
11月4日(土) | 白鳳仏の源流を求めて−菩薩像の着衣形式を中心に− |
11月5日(日) | せん仏の系譜 ―穴太廃寺と崇福寺のせん仏を中心に― |
11月11日(土) | 大津の都を護る神仏 |
11月18日(土) | 【現地見学会】大津宮関連史跡をめぐる |
11月25日(土) | 近江大津宮研究の最前線 |