大津市の中心地、旧の「大津町」の西にそびえるのが長等山。その秀麗な姿は古くから歌にされ、麓からは霊水が涌き出ることで知られていました。その風光明媚な場所に、7世紀中頃に開創されたのが園城寺、通称「三井寺」です。近江大津宮(大津京)や古代北陸道、琵琶湖の港「大津」に関連した白鳳寺院でした。その三井寺を9世紀に教待和尚から譲られたのが智証大師円珍です。入唐して唐の経典や仏画などを請来し、比叡山延暦寺の第5代天台座主として天台宗の隆盛に努めた円珍は、三井寺に貴重な請来経典を置くなどして天台別院として整備しました。後の10世紀末に比叡山延暦寺が円仁派と円珍派に分裂すると、三井寺は円珍派の中心拠点となりました。広大な敷地の堂舎には多くの仏像や仏画が安置され、日本四箇大寺の一つとして隆盛を極めました。そして今なお三井寺や門前には、多くの古い仏像が伝来しています。
平成26年(2014)の本年は、弘仁5年(814)年に生まれた智証大師円珍の生誕1200年の節目の年にあたります。それを記念して大津市歴史博物館では、大津が育んだ重要な文化の一つである三井寺の仏教文化について紹介します。三井寺とその周辺に伝来する優れた仏像や仏画に触れていただき、我が国屈指の仏教文化の聖地としての大津の魅力を感じていただけましたら幸いです。
なお、期間内には三井寺においても慶讃大法会として秘仏公開がなされています。三井寺と当館をあわせて訪問することで、三井寺の仏像の全容を知ることができるでしょう。
※「所有者名」以外は、園城寺を「三井寺」と表記しています。
※作品名の前の印は、●国宝、◎重要文化財、□滋賀県指定文化財、△大津市指定文化財を表しています。
円珍の肖像と、唐の開元寺でインドの高僧から授与されたものである可能性のある梵夾を紹介します。その特徴的な相貌を持つ円珍。その風貌で積極的に活躍していた様子を、国宝の梵夾から想像してみてください。
1. 木造智証大師坐像 室町〜江戸時代 園城寺(行者堂)蔵 |
3. □絹本著色智証大師像 室町時代 園城寺(唐院)蔵 |
5. 絹本著色智証大師像 南北朝時代 園城寺(唐院)蔵 |
1. 木造智証大師坐像(展示期間:10月11日〜11月24日)
行者堂に伝来した等身大の円珍像で、その着衣の形式から、唐院大師堂の中尊大師(国宝)の模刻であることがわかります。表面に新しい塗料が塗布されているため新しく見えますが、像底の形は中世を思わせるものがあり、そして構造は中尊大師と、さらにその平安時代の写しである聖護院像の中間のような造り方で、近世の造像という感じがしません。中世の像が傷んだため近世後期以降に修復を受けた像である可能性があります。
3. □絹本著色智証大師像(展示期間:10月11日〜10月26日)
智証大師円珍の肖像画は、彫刻と比べると「吊袈裟」を採用するなどと服制が若干異なり、その影響をうけるというよりは、画像独自に描かれていった模様です。がっしりとした体格に表されることが多い円珍ですが、本画では細身となっています。
5. 絹本著色智証大師像(展示期間:10月11日〜11月24日)
軸装として描かれた、単独の斜めを向いている円珍像としては現存唯一のものです。両手を拱手(胸前で両腕をつなぐ)して服の中に隠す表現は独特です。99の新羅明神像(本館蔵)と伝教大師像(米国・ボストン美術館蔵)とはもともと一具で、九鬼隆一をはじめとした「臨時全国宝物取調局」によって明治21年(1888)に行われた社寺調査で、「優等ト認メタルモノ」として報告されています。
べんべんも人のことは言えないけど、 お大師様べんの頭の形は個性的だべん! 唐では、特異な形の頭蓋骨を持つことで、 過去の悪行を隠し、 未来を予知するという風習があったべん。 お大師様べんも狙われるから気を付けるべんと、 先輩に言われたそうだべん! |
6. 梵夾 中国・唐時代 大津市比叡辻・聖衆来迎寺蔵 |
7. ●梵夾 中国・唐時代 園城寺蔵 |
6. 梵夾(展示期間:10月11日〜11月24日)
7. ●梵夾(展示期間:10月11日〜11月24日)
三井寺本の夾板には、円珍が自筆で表題を墨書しており、聖衆来迎寺本には「珍記」と墨書がある事から、ともに円珍が請来したものと考えられています。円珍が唐・大中七年(853)に1か月滞在した福州(福建省)の開元寺において、インドの大那蘭寺からきていた般若怛羅三蔵から授与された梵夾(『開元寺求法目録』 国宝 園城寺蔵)が、このどちらにあたる可能性があります。
お大師様べんが中国で、 インドから来た師匠から古代のインド語(サンスクリット)で 書かれたお経をもらったべん! このお経は、「梵夾」といって、 葉っぱに書いて木の表紙で挟んだ形式の変わった形をしているべん。 お大師様べんが日本に持って帰った梵夾が、 なんとまだ残っているべん!すごいべん! |
円珍入寺以前、つまり7世紀に創建された三井寺の様子や本尊について紹介します。不明なことが多いのですが、近江大津宮(大津京)関連寺院出土塑像や、本尊を描いた画像などから思い起こしてみます。
10. 塑像断片[真野廃寺出土] 白鳳時代 大津市教育委員会蔵 |
13. 銅造弥勒菩薩半跏像 朝鮮・三国時代 比叡山延暦寺蔵 |
14. 絹本著色弥勒菩薩像 鎌倉時代 京都国立博物館蔵 |
10. 塑像断片[真野廃寺出土](展示期間:10月11日〜11月24日)
大津市の真野で近年発掘された丈六クラス(坐像で2m50pほど)の大きさを持つ塑像の如来像の断片です。園城寺前身寺院とほぼ同時期の造像と思われるこの塑像は、三井寺創建当初に安置されていた仏像の様子を考えるうえで貴重な作例です。
13. 銅造弥勒菩薩半跏像(展示期間:10月11日〜11月24日)
本像は、比叡山延暦寺の西塔にある椿堂の本尊、木造千手観音像の胎内仏といわれ、朝鮮半島で三国時代(7世紀)に制作された可能性があります。園城寺前身寺院が建立された時期と近い頃の像であり、三井寺金堂に安置されていた姿を髣髴するには興味深い像といえるでしょう。
14. 絹本著色弥勒菩薩像(展示期間:10月11日〜11月3日)
『園城寺伝記』一之二「金堂弥勒事」に「生身弥勒ヲバ造リ木造ヲ。奉ル籠中ニ也。生身弥勒ハ仏形也。木像ノ弥勒ハ菩薩形。持チ首尾ヲ給フ」とある記事に対応し、三国伝来という「生身弥勒」を籠める鞘仏としての木造弥勒菩薩像を描いていると考えられています。この三体を描く同様の図像を持つ例は知られず貴重なもので、そのしっかりとした線描や色使いから、13世紀に描かれたと思われます。
三井寺は、 お大師様べんがいらっしゃるずっと前の7世紀の中ごろ、 大津に都があった時からあるべん!古いんだべん! ご本尊さまべんは、絶対秘仏の弥勒仏だべん。 三井寺広報僧のべんべんも、拝んだことがないべん! |
三井寺に実際に現存する仏像を紹介します。三井寺では、金堂の外陣に安置されている仏像や他の一部の像を除いて、ほとんどの尊像は普段目にすることはできません。そのような尊像のうち、特に文化財として価値のあるものや仏像の歴史上興味深い像を展示します。
17. 木造阿弥陀如来坐像 奈良〜平安時代 園城寺(金堂)蔵 |
18. 木造千手観音立像 平安時代 園城寺(如意寺伝来)蔵 |
19. 木造不動明王坐像 平安時代 園城寺(行者堂伝来)蔵 |
17. 木造阿弥陀如来坐像(展示期間:10月11日〜11月24日)
右肩には翻波式衣文を表し、さらにその体のバランスや作風が奈良市・新薬師寺の木造薬師如来坐像(8世紀末〜9世紀)の光背化仏と近似することから、本像も平安初期の西暦800年前後には造像された可能性があります。大津市屈指の古い木彫仏ということができます。
18. 木造千手観音立像(展示期間:10月11日〜11月24日)
三井寺のある長等山と京都との間にある如意ヶ岳にかつてあった如意寺にもとあったと伝えられている像です。頭体幹部から蓮肉に至るまでを太い針葉樹の一木から彫出し、さらに極端な彫刻を行わず木材の感じを残し、一本の木の量感をうまく表しており、9世紀の造像と考えられます。
19. 木造不動明王坐像(展示期間:10月11日〜11月24日)
かつての三井寺北院にあった佛地院の本尊です。体躯の奥行きは大変深く、重量感あふれる作風を持っています。京都市・教王護国寺(東寺)の講堂に安置の、空海が造像した九世紀の不動明王像と近似しており、9〜10世紀頃に、東寺講堂像を約半分の大きさで模刻した像です。
三井寺にはたくさんの仏様べんが安置されているべん。 平安初期の仏像べんは、重量感があるべん! |
23. 木造不動明王坐像 平安時代 園城寺(行者堂)蔵 |
24. ◎木造護法善神立像 平安時代 園城寺(護法善神堂)蔵 |
25. △銅造千手観音立像 平安時代 園城寺(近松寺)蔵 |
23. 木造不動明王坐像(展示期間:10月11日〜11月24日)
作風が穏やかになってきていますが、あくの強い表現がみられます。定朝様が流行する以前の11世紀前半の造像と思われ、県内に現存する不動明王でも古例といえます。
24. ◎木造護法善神立像(展示期間:10月11日〜11月24日)
「千団子」祭で有名な護法善神堂に安置されている神像です。その姿は、仏教の吉祥天像に近似し、本像と近い姿を持つ像として、同じく等身大の東京国立博物館所蔵の木造吉祥天立像(亀岡市・旧大宮神社伝来 平安時代)が挙げられます。長身で頭部が小さく、体躯も細身ですが、独特の重みを感じさせる作風を持っています。彫が浅いめで、奥行きも薄くなってきています。穏やかな作風などから平安後期の11世紀後半の造像と思われます。
25. △銅造千手観音立像(展示期間:10月11日〜11月24日)
園城寺の五別所の一つ、近松寺の本尊です。作風は面相部の柔らかく丸い感じや、伏せ目がちでやや眠そうな表情をしています。また、着衣の浅めで穏やかな衣文など、全体に上品でおとなしい作風は典型的な定朝様を示し、院政期(11世紀後半〜12世紀半ば)に流行したものです。平安後期の金銅仏はそれほど多く残っておらず、その中でも本像は優品の一つとして知られています。
29. 木造不動明王立像 平安時代 園城寺(金堂)蔵 |
30. 木造不動明王立像 平安時代 園城寺(金堂)蔵 |
32. 木造不動明王立像 平安時代 園城寺(観音堂)蔵 |
29. 木造不動明王立像(展示期間:10月11日〜11月24日)
金堂の内陣に安置されていますが、近年までは三井寺の別所、近松寺に伝来していました。細身で、なおかつ頭部が全体に小さく、プロポーションがよく見える不動明王の立像です。頭部の側面観が、下頬が前に出て後頭部の上部が後ろに出るように見えるところは、11世紀後半から12世紀前半にかけて流行したものです。彫技は的確で、作風も洗練されており、この頃の都に直結していた三井寺における造像として違和感はありません。
30. 木造不動明王立像(展示期間:10月11日〜11月24日)
等身大の不動明王の立像です。作風は極めて都ぶりの上品なもので、忿怒の面相も穏やかです。両肩は適度にいかり肩でしっかりとした骨格を感じさせ、平安後期特有の太い臀部と相まって、腰回りは細くくびれています。さらに膝下が細くて長く、頭体のバランスもうまくとれています。おそらくは三井寺山内のしかるべき不動堂もしくは護摩堂などの本尊として、都の中心的な仏師によって造像されたと思われます。
32. 木造不動明王立像(展示期間:10月11日〜11月24日)
観音堂に伝来した三尺の不動明王の立像です。上半身を細身にして臀部を大きくし、さらに裳を長大に表すところや、衣文の浅い表現、さらに忿怒の面相も穏やかです。それらは京都で12世紀に流行したもので、本像の造像も平安後期と考えられます。三井寺では同じころに造られた不動明王がいくつも見られます。それらは平安貴族の求めに応じて、三井寺僧が盛んに密教修法を行っていた様を髣髴させます。
三井寺は、古い仏像べんの中では、 平安後期が一番多いべん。 さらに言えば、三井寺は不動明王べんが、 ずごくたくさんいらっしゃるべん。 平安後期の仏像べんは、繊細で優美だべん! |
36. 木造不動明王坐像 鎌倉時代 園城寺(唐院・長日護摩堂)蔵 |
37. 木造毘沙門天立像 鎌倉時代 園城寺(金堂)蔵 |
38. 木造地蔵菩薩坐像 鎌倉時代 園城寺(法明院)蔵 |
36. 木造不動明王坐像(展示期間:10月11日〜11月24日)
唐院の長日護摩堂の本尊です。はちきれんばかりの頬の筋肉やあごの丸みは、生命感にあふれ迫力が満ちています。体躯は、肩幅が広く筋肉質で、右肘の張りや左ひじの曲げ具合も力が入り、写実的です。膝の張りもあり、衣文も太めでリズム感があります。側面から見ると頭体ともに肉厚でしっかりとした体つきです。このような作風は、運慶の子である湛慶、もしくは同時期の同じ慶派の肥後定慶などに近い感覚があります。おそらくは、建保年中(1213〜19)の唐院復興時に湛慶工房や肥後定慶などの慶派によって造像された可能性が考えられます。
37. 木造毘沙門天立像(展示期間:10月11日〜11月24日)
右手は肘を水平に近く横に張り、屈臂して戟の柄を肩前で握り、左手は屈臂して宝塔を掲げ持っています。腰を左に捻り、右足を少し開いて邪鬼の上に立つ姿となっています。本像のこの姿勢は、運慶作として名高い伊豆の国市・願成就院像と近似し、運慶が編み出したこの様式・形式を模したものと考えられます。本像の作風も慶派に通じるものがあることから、おそらくその中の一体ということが出来るでしょう。やや傷んではいますが、鎌倉初期のかっこいい毘沙門天の姿をうかがうことが出来ます。
38. 木造地蔵菩薩坐像(展示期間:10月11日〜11月24日)
作風を見ると、肉体の凹凸も極力抑えられており、着衣の彫も浅めで、極めて上品でおとなしく造られています。体躯の奥行きも浅く、平安後期(12世紀)の作例によく似ています。しかしながら、丁寧にそろえられた衣文や着衣の表し方や形式は13世紀に多くみられるものです。また、頭部の表現もややつり目で理知的な相貌で、鎌倉期によく表された表情です。おそらくは平安時代の趣を残した鎌倉時代の造像と考えられます。
鎌倉時代の仏像べんは、リアルでかっこいいべん。 |
41. 木造愛子立像 鎌倉時代 園城寺(護法善神堂)蔵 |
42. 木造釈迦如来立像 鎌倉〜南北朝時代 園城寺(釈迦堂)蔵 |
45. 木造地蔵菩薩坐像 南北朝時代 園城寺(金堂)蔵 |
41. 木造愛子立像(展示期間:10月11日〜11月24日)
本像は、訶梨帝母の子どもの像です。『寺門伝記補録』第四には、「手刻神像者、三井所伝、善神像凡三。一者尼形、高八尺。大師親作、昔時亡之。二者、天女形、高四尺八寸。大師手刻。今安祠内。三者、天女坐像、高一尺三寸七分。愛子七寸五分。佛工印覚作之」とあり、おそらく大きさや作風の近似から、三井寺に伝わる訶梨帝母倚像(重要文化財 非出陳)と一具のものとして、鎌倉時代の院派仏師と思われる院覚によって造られた可能性があります。
42. 木造釈迦如来立像(展示期間:10月11日〜11月24日)
東大寺僧「然が入宋中に、インド伝来という釈迦如来を模して、さらに我が国に請来したという京都市・清凉寺の釈迦如来立像の模刻で、「清凉寺式釈迦如来」と呼ばれる像です。異国的な趣味があるのはそのためです。頭部や両手、両足が大きく、釈迦の常人ならざる様子を示しています。年代などの詳細は今後の課題です。
45. 木造地蔵菩薩坐像(展示期間:10月11日〜11月24日)
作風や構造は南北朝時代(一四世紀)に流行したもので、特に京都の仏師集団である「院派」が得意としたものです。さらに最近のエックス線調査により頭部に納入品があることが分かりました。この納入品は、お寺の記録と、14世紀後半に造像された仏像の作風を鑑みて、足利尊氏、もしくは義詮の遺髪が含まれている可能性が高いと現段階では考えられます。
46. 乾漆宝冠釈迦如来坐像 室町時代 園城寺(金堂)蔵 |
48. 木造不動明王立像 室町時代 園城寺(水観寺)蔵 |
51. 木造釈迦如来及び両脇侍像 江戸時代 園城寺(唐院・三重塔)蔵 |
46. 乾漆宝冠釈迦如来坐像(展示期間:10月11日〜11月24日)
本像の構造は、頭部は木造ですが、体部は「脱活乾漆造」という中世では極めて珍しい造り方で造像されています。ほとんど例がなく、国内では鎌倉市・寿福寺像くらいしか知られていません。作風から室町時代(15世紀)の院派仏師の造立と考えられますが、表面に施された盛り上げ彩色は同じ形がなく、型押しではなく手で盛り上げて造られており、これも他ではほとんど類例がありません。三井寺の中世における造像の、技法や表現などの豊かなバリエーションを感じることが出来るでしょう。
48. 木造不動明王立像(展示期間:10月11日〜11月24日)
頭部を方形に表すところや、裳の縁を正面やや右でまっすぐと下におろすところ、膝の衣文をほとんど表さず大づかみな肉どり、裳裾の後ろを膨らませる表現などは室町時代の不動明王像によくみられるものです。特に背面の腰帯に裳が垂れかかる重たい表現や、腰部が肥大なところも、この時代の様式といえるでしょう。彩色や截金文様もよく残っており、室町時代の技法をよく味わうことが出来ます。
51. 木造釈迦如来及び両脇侍像(展示期間:10月11日〜11月24日)
面相部の写実的な表現は鎌倉時代以来の慶派の流れを表し、体躯の大ぶりで角ばったところは、南北朝から室町時代に流行したものです。とはいえ、やや固めの表現や、いわゆる箱式の構造などは江戸時代によくみられるものです。元和9年(1624)に後陽成天皇の七回忌に宮中で行なわれた法華八講本尊として、七条大仏師(西仏所)法眼康温により造られたもので、園城寺復興の際、唐院三重塔本尊として寄進された像です。
南北朝時代の仏像べんはずんぐりむっくりだべん。 「乾漆造」って、漆と麻布で造るらしいべん。 日本で中世の乾漆造の仏像べんは、 2例しかないらしいべん! なんで三井寺にあるべん? |
三井寺周辺に伝来し、かつては三井寺にあったと想像される像を紹介します。
57. △木造菩薩立像 奈良〜平安時代 大津市・北保町自治会蔵 |
58. △鉄造弥勒如来坐像 平安時代 大津市・北保町自治会蔵 |
60. 木造地蔵菩薩及び二童子像 南北朝時代 大津市・真西町自治会 |
57. △木造菩薩立像(展示期間:10月11日〜11月24日)
腰がくびれ背筋が豊かに現れる背中の表現や、ゆったりと天衣が両肩に懸かるさまは8世紀後半の趣を感じさせます。さらに豊かな髻の表し方や後頭部の襟足を膨らませる表現などは、長岡京時代の作という考えがある京都・宝菩提院菩薩半跏像に通じるものがあります。天衣の一端を背面にまわす所も8世紀後半から9世紀前半の像によくみられることからも、その頃の造像と考えられます。円珍が入寺する前の三井寺の仏像である可能性があり、大変貴重な作例といえます。
58. △鉄造弥勒如来坐像(展示期間:10月15日〜11月24日)
典型的な定朝様(平安中期に仏師定朝が作り出し、平安後期に一世風靡した仏像様式。)を呈し、穏やかで丸い面相部、薄い衣文(服のしわ)などがみてとれ、十二世紀後半の造立として問題ありません。わが国に現存する最古級の鉄仏の例といえます。かつては三井寺山内に伝来していたが、混乱時に門前に移動され、江戸時代には北保町の弥勒堂に安置されたものと考えられます。平安後期の豊かな三井寺の造像の一端を示すものとして大変興味深い作例です。
60. 木造地蔵菩薩及び二童子像(展示期間:10月11日〜11月24日)
三井寺の南、長等公園の近くの小さな地蔵堂に伝来しました。この辺りは、尾蔵寺や近松寺といった三井寺の別所や関連寺院が多く連なっていた地域です。現在も周辺には三井寺にかつてあったと思われる仏像が散見されます。作風や独特の構造により、南北朝時代の院派仏師の作であると考えられます。院派は三井寺山内でも多くの造像が見られることから、本像も本来は三井寺の堂宇に安置されるべく造像されたと考えられます。
三井寺は豊臣秀吉に闕所(寺院停止)を命令されたべん! その時寺の周りに仏像や宝物が避難したべん。 だから、三井寺周辺には古い仏像が沢山伝来しているべん! |
第X章では、三井寺に伝来する仏画を展示します。三井寺には多数の仏画が伝わっていますが、著名なもの以外でも、まだまだ未公開のものがかなり残っています。今回は仏画の悉皆的な調査を行い、興味深い作例が多く見つかりました。バリェーション豊かな三井寺の仏画の世界を体感してください。
64. 絹本著色両界曼荼羅図 胎蔵界曼荼羅図 南北朝時代 本館蔵 |
64. 絹本著色両界曼荼羅図 金剛界曼荼羅図 南北朝時代 本館蔵 |
64. 絹本著色両界曼荼羅図 (展示期間10月11日〜11月24日)
金剛界曼荼羅が、成身会の一会だけからなる「八十一尊曼荼羅」と呼ばれる形式で、主に台密で用いられました。
両界曼荼羅(りょうかいまんだら)は、 胎蔵界、金剛界からなり、密教の世界を表しているべん! 密教のお寺には必ずセットであり、 重要な法要で用いられるんだべん! 灌頂(かんじょう)という儀式では、 両界曼荼羅を敷いて、紙の葉っぱを投げ、 落ちたところのほとけと結縁(けちえん)するべん! |
67. ◎絹本著色八大仏頂尊曼荼羅図 鎌倉時代 園城寺蔵 |
73. ◎絹本著色尊星王像 鎌倉時代 園城寺蔵 |
75. ◎絹本著色閻魔天曼荼羅図 鎌倉時代 園城寺蔵 |
67. 絹本著色八大仏頂曼荼羅図 (展示期間:10月11日〜11月3日)
如来の肉髻(頭部の盛り上がったところ)を象徴する8体のほとけ(八大仏頂)を、大日如来を中心にして曼荼羅で表しています。
73. 絹本著色尊星王像 (展示期間:10月11日〜11月3日)
北極星を神格化したほとけで、北極星の上に立つ尊星王が龍の背に乗る姿と、北斗七星が描かれています。
75. 絹本著色閻魔天曼荼羅図 (展示期間:10月11日〜11月3日)
鳥獣人物戯画の作者とされる鳥羽僧正覚猷が院に奉ったという、閻魔天を中心に道教の神々を描いた曼荼羅です。
96. ◎絹本著色新羅明神像 鎌倉時代 園城寺蔵 |
89. 絹本著色三尾明神像 室町時代 園城寺(唐院)蔵 |
108. 絹本著色三井曼荼羅図 江戸時代 園城寺(光浄院)蔵 |
96. 絹本著色新羅明神像 (展示期間:11月5日〜11月24日)
円珍を教待和尚に引き合わせた新羅明神を、随神の日御子、般若菩薩・宿王菩薩、本地仏である文殊菩薩とともに描いています。
89. 絹本著色三尾明神像 (展示期間:11月5日〜11月24日)
伊弉諾尊の垂迹した姿で、長等山麓の古くからの地主神である三尾明神の姿を描いています。
108. 絹本著色三井曼荼羅図 (ミニ企画展 展示期間:11月7日〜12月7日)
三井寺に特有の神仏を、三井寺の秘仏である黄不動尊を中心に曼荼羅形式で表しています。
102. 紙本著色仏涅槃図 江戸時代 園城寺(唐院)蔵 (初出陳) |
102. 紙本著色仏涅槃図(展示期間:10月11日〜11月24日)
この絵はお釈迦さまべんが亡くなる場面を描いているべん! なんと、高さが4m80cmもあってとってもおっきいべん! 裏に銘文があって、 1610年に狩野宗安という人が描いたことがわかるべん! 毎年3月15日には、 金堂でこの涅槃図を掛けて涅槃会をしているので、 みんな来てくれるとうれしいべん! |
126. 絹本著色東照権現像 江戸時代 園城寺(唐院)蔵 |
103. 絹本著色不動明王像 江戸時代 園城寺(唐院)蔵 |
79. 絹本著色金色不動明王像 江戸時代 園城寺(光浄院)蔵 |
126. 絹本著色東照権現像(ミニ企画展 展示期間:11月11日〜12月7日)
徳川家康は、慶長の復興に際して北政所とともに金堂の再建に尽力したことで知られています。木村徳応筆。(初出陳)
103. 絹本著色不動明王像 (展示期間:11月5日〜11月24日)
この不動明王像は、桃山画壇の巨匠海北友松の息子友雪によって描かれており、ほとんど同じ図柄での三幅対として伝来しています。
79. 絹本著色金色不動明王像 (展示期間:11月5日〜11月24日)
三井寺の秘宝として名高い黄不動尊を、復古大和絵の絵師である冷泉為恭が模写したものです。
129. 紙本著色新羅明神像 江戸時代 園城寺(法明院)蔵 |
130. 紙本著色日御子像 江戸時代 園城寺(法明院)蔵 |
131.紙本著色般若・宿王菩薩像 江戸時代 園城寺(法明院)蔵 |
129〜131. 紙本著色新羅明神像・紙本著色日御子像・紙本著色般若・宿王菩薩像(展示期間:10月11日〜11月24日)
今回、企画展に合わせて三井寺の悉皆調査を行った結果、法明院より新たに発見された図像類のうちの一つです。本図は、三井寺に伝わる重要文化財の新羅明神像を、天保10年(1839)に、法明院の敬彦が絵師南田に写させたことが銘文より知られます。(初出陳)
第Y章は、世界的秘宝の五部心観を、ケースいっぱいに贅沢に展示します。また、巻末が展示されることの多い五部心観ですが、今回は法明院本を巻首から展示します。めったに見ることのできない五部心観をご堪能ください。
※「五部心観」は、通常、一幅の軸装の形で、密教の仏の世界をカラフルに表す曼荼羅を、その仏像1体1体を抽出して、仏像ごと横に並べて白描で描き、巻子状にしたものです。これをみれば、金剛界曼荼羅に描かれている仏像の姿や、手の形、持物そしてインドの名前などが判る解説書みたいなものといえるでしょう。「心観」とあることから、密教の行者がこれらの仏の姿を観想(心中でイメージ)することにも使用されたようです。巻末をみると、インドの密教僧、「善無畏」が描かれており、善無畏が大成した金剛界曼荼羅を描いていることが分かります。色の指定があることから、善無畏の原本は彩色画であった可能性があります。
巻末 |
147. ●紙本墨画五部心観[完本]巻首 中国・唐時代 園城寺蔵 |
巻末 |
148. ●紙本墨画五部心観[前欠本]巻首 平安時代 園城寺蔵 |
巻末 |
149. 紙本墨画五部心観 巻首 江戸時代 園城寺(法明院)蔵 |
147. ●紙本墨画五部心観[完本](展示期間:10月11日〜11月3日)
「完本」は、唐の大中九年(855)に長安に留学中、密教の師匠である「法全阿闍梨(青龍和上・傳教大阿闍梨)」が持っていた本書をそのまま頂いたものです。完本はすぐに秘書的な扱いとなったのは、本画の保存がきわめて良好であることからも容易に推測できます。作風も、善無畏の姿は極めて異国的で、描かれた仏像も均整の取れた肉付きのいい体つきです。さらに淀みのない筆線もすばらしく、生命感にあふれています。唐時代の密教関係の原本はほとんど現存していないので、本画の価値は計り知れないものがあります。
148. ●紙本墨画五部心観[前欠本](展示期間:11月5日〜11月24日)
前半の50尊分を欠失している「前欠本」は、平安時代の11世紀頃の模写と考えられています。彩色に関する記述や梵字のなかには、完本にはあるが前欠本にはない個所もあり、さらに完本には大師自筆の墨書があります。常識的にみれば、古い方の原本(完本)の方が模写よりも傷んでいるはずですが、おそらくはこの模本を制作した後に原本は大事に秘蔵され、もっぱら必要な時は、本巻が使用されたからだと思われます。
149. 紙本墨画五部心観(展示期間:10月11日〜11月24日)
墨書に「安政四年丁巳四月朔日以原本校了 敬彦」とあり、安政四年(1857)に法明院の敬彦によって書写されたことが分かります。文字などは第71尊までは完本を、それ以下は前欠本を写しているようです。その出来は秀逸で、図像は完本を直模したと考えられるほど近似しています。敬彦は他にも多くの仏画を写しており、この時期の仏画の模写技術の高さを感じることが出来ます。
本場の中国にも残っていない、世界的な秘宝だべん!!! 厳重な封印がされていて、その封を開けるためには、 長吏猊下をはじめ、 三井寺僧みんなで開封の法要をしなければならないべん。 だから、われわれ三井寺の僧侶も、 普段は全く目にできないべん。 べんべんも拝見するのが楽しみだべん!!! |
展覧会期間中、作品の展示替えを行ないます。以下の展示作品一覧に、展示替え予定を掲載しておりますのでご確認ください。なお、所蔵者のご都合等により、急遽展示替えや展示とりやめを行なう場合がございますので、あわせてご了承ください。
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展覧会をより深くご理解いただくため、期間中さまざまな講座を開催いたします。
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タイトル | 第65回企画展「三井寺 仏像の美」 |
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会期 | 平成26年 10月11日(土)〜11月24日(祝・月) |
期間中の休館日 | 10月14日(月)、20日(月)、27日(月) 11月4日(火)、10日(月)、17日(月) |
会場 | 大津市歴史博物館 企画展示室A・B |
主催 | 大津市・大津市教育委員会・大津市歴史博物館・京都新聞 |
特別協力 | 天台寺門宗・園城寺 |
協力 | 湖信会・西国三十三所札所会・数珠巡礼会・びわ湖百八霊場会 |
後援 | NHK大津放送局・BBCびわ湖放送・エフエム京都・エフエム滋賀 |
観覧料 | 一般1,000円(800円) 高校・大学生500円(400円) 小中学生 無料 ※( )内は、前売、15名様以上の団体。および、大津市内在住の 65歳以上の方、大津市内在住の障害者の方の割引料金(証明するものをご提示ください)。 ※三井寺の参拝券および特別拝観チケット持参者は、団体割引適用 |
前売券 | 前売券は、大津市観光案内所(JR大津駅・石山駅・堅田駅前)、大津市民会館、ローソンチケット(Lコード:57671)をはじめ、京阪津地区の主なプレイガイドで8月12日から11月24日まで発売。 |